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なぜロート製薬が「再生医療」なのか?技術融合が拓く再生医療の未来

2026年3月17日 インタビュー
 

「ロートは、ハートだ。」のスローガンを掲げるロート製薬。実は今、再生医療分野でも注目を集めています。今回は、動物やヒト由来の成分を使用しない独自のAOF(アニマルオリジンフリー)培地「R:STEM Medium for hMSC High Growth(以下R:STEMと記載)」の開発秘話と、そこに至る想いについて、担当者の大久保氏に詳しくお話を伺いました。

目次

  1. なぜロート製薬が「再生医療」なのか?技術の融合が拓く再生医療の未来
  2. 製品紹介
  3. 用語集
  4. まとめ

なぜロート製薬が「再生医療」なのか?技術の融合が拓く再生医療の未来

創業から127年、変わらぬ「社会課題」への挑戦とDNA

―― ロート製薬様といえば「目薬」や「スキンケア」のイメージが強いですが、再生医療分野、特に「培地」に展開を広げられた背景にはどのような意図があったのでしょうか?

再生医療には非常に高度な無菌技術が求められますが、当社は長年にわたり目薬の製造を通じてその技術を培ってきました。こうした技術的基盤は、培地や細胞製剤の製造においても大きな強みとなっています。また、アイケア(目)やスキンケア(皮膚)の分野でも、もともと幹細胞の研究を行っていて、目の黒目と白目の間にある輪部幹細胞や、皮膚のターンオーバーに関連する表皮幹細胞などの研究を深めていました。これらの細胞を扱う知見や技術の蓄積が、当社が再生医療分野へ展開している大きな背景となっています。「培地」についても、再生医療分野での事業化を見据えた研究の中から、お客様に近く、より社会への還元が早期に可能な分野から実用化を進めています。

―― 技術的な基盤があった上での参入だったのですね。

はい。ただ、それ以上に根底にあるのは、創業から一貫して変わらない「社会課題に向き合い、人の健康に寄与する」という強い想いです。

例えば、1899年に発売した胃腸薬「胃活(いかつ)」は、当時の日本で欧米食が広がり、胃病を患う方が増えたという社会課題に対応したものでした 。また、1909年の「ロート目薬」は眼病の流行に対し、有効な処方箋を元に製品化しました 。1985年の妊娠検査薬「チェッカー」も、男女雇用機会均等法が制定された時代に、「妊娠に気づくのが遅れる」という課題に対し、女性がセルフチェックできるように製品化した経緯があります。

―― 常に時代の課題と向き合ってこられたのですね。

そうですね。「ロートは、ハートだ。」というコーポレートスローガンや、「R」から延びる線で「人」という漢字を連想させるロゴデザインにも表れている通り、社員一人ひとりの情熱で、お客様の心を動かし社会をより良い方向へ進めていけるように、私たちのモノづくりは常に「お客様や患者様」その一人のことを考えています。

再生医療においても同様です。OTC医薬品から最先端の再生医療までを手掛けることで、「人ひとりの人生を捉えた時、健康な時もそうでない時も、希望と光が差すようにしたい」。この想いが、我々の大きな原動力になっています。

「R:STEM®」開発秘話 ~アイケア・スキンケア技術の「CONNECT」~

―― そのような想いから生まれた再生医療用培地「R:STEM」ですが、開発において特にこだわった点や、御社ならではの強みについて教えてください。

最も重要視し、かつ挑戦だった点は「AOF(アニマルオリジンフリー)」の徹底です 。AOFの定義は各社で異なりますが、ロート製薬では5界説における「動物界すべて」を動物と定義し、哺乳類はもちろん、魚類や昆虫由来の成分も一切使用していません。これにより、未知のウイルス感染リスクを下げ、ロット間差を少なくするなど性能的にも安定させることが可能になります。

―― AOFを徹底するというのは、非常に高いハードルですね。

はい。原料の選択肢が狭くなるという難しさに直面しましたが、培養する際のリスク低減を最優先しました。

ここで活きたのが、社内技術の「CONNECT(つなぐこと)」です 。

例えば、培地の中で溶けにくい成分がある際、アイケアチームが培ってきた「可溶化技術」を応用しました。目薬は目に直接入れるものですから、目にも細胞にも優しい成分での工夫が可能になります。

また、細胞の活性酸素を還元するための「抗酸化剤」の選定においても、スキンケアやアイケア分野で蓄積されたビタミンの知見を参考に、細胞が心地よく育つ組成を追求しました 。

―― まさにロート製薬様のアセットが結集されているのですね。品質保証の面ではいかがでしょうか?

「R:STEM」は、国内で初めて「FIRMマーク」認証を取得しました。これは細胞治療製品及び遺伝子治療製品の製造時に使用する補助材料の基準であるISO 20399に基づいた要求事項を満たしているということが、証明された認証マークです。

現在、ISO 20399の正式な認証機関は世界中にもまだ存在しない状況ですが、将来的な国際スタンダードを見据え、いち早く高い品質レベルを目指すためにFIRMマークを取得しました。これはお客様に安心して手に取っていただくための、信頼の証になると考えています 。

―― どのような研究者の方に使っていただきたいですか?

現在は研究用として販売していますが、将来的に医療応用(臨床研究・実用化)を見据えているアカデミアや民間の研究者の方々にぜひ使っていただきたいです。最初からこの培地を使うことで、将来、細胞製剤の製造へ進む際に、処方を変えることなくシームレスに産業化へ移行(トランスレーション)できるように考え、開発しています。

Nakanoshima Qrossから描く、再生医療産業化への未来

―― 大阪・中之島の「Nakanoshima Qross」に拠点を構えられましたが、ここにはどのような意味があるのでしょうか?

最大の目的は、オープンイノベーションを通じて「再生医療の産業化」を加速させることです 。Nakanoshima Qrossは、企業、クリニック、教育機関が集積し、再生医療分野における研究開発、臨床、事業化の連携を促進する拠点です。私たちのオフィスも半分は交流スペースとして活用しており、外部との協業を通じて「未来の医療をみんなで作る」ことを体現したいと考えています。

また、ここには研究ラボだけでなく、細胞加工施設(CPC)も併設予定で、研究開発から製造までが一気通貫で行える体制を整えたいと考えています 。これにより、開発したシーズをいち早く医療関係者を通して患者様の元へ届けるための「産業化への直結」が可能になります。

―― 最後に、今後のロート製薬の再生医療における展望をお聞かせください。

まずは、現在進めている細胞製剤の開発と、CDMO(開発製造受託)事業の強化です。既に特定細胞加工物の製造を行い、クリニックへの提供も進めています 。

培地事業に関しては、ラインナップを拡充し、脂肪由来間葉系幹細胞だけでなく、エクソソーム研究など幅広い用途に対応させていきたいと考えています 。そして、国内だけでなくアジア諸国など海外展開も見据え、培地事業をもう一つの大きな柱に育てて行きたいですね。

そして何よりのミッションは、日本における「再生医療全体の底上げ」です 。

iPS細胞をはじめ、日本には世界的に評価される優れた基礎研究があります。私たち企業がその産業化をしっかりと定着させ、業界全体を盛り上げていくこと。それが、人の健康とウェルビーイングに貢献するロート製薬の使命だと考えています 。

インタビュー企業・インタビュイー紹介

大久保 徹 氏
ロート製薬株式会社 再生医療研究企画部
細胞技術開発グループ  新規技術開発チームリーダー
 
2009年-       
ロート製薬株式会社に入社し基礎研究部門に配属
2011年-2012年
出向:ミシガン大学, 医学部皮膚科, 客員研究員
2013年-2018年 
出向:大阪大学, 幹細胞応用医学寄附講座,
企業等共同研究員
2018年-現在   
再生医療研究企画部にて細胞に関わる新規技術開発に携わる
 


今回サイサチでは大阪にあるNakanoshima Qross内のロート製薬のラボにてインタビューをさせて頂きました。

取材協力:ロート製薬株式会社

製品紹介

今回のインタビュー内でも詳細をお伺いさせていただいた間葉系幹細胞培養用培地「R:STEM」や、細胞外小胞(EVs)産生用培地「StemNavi」についての詳細はこちらです。

R:STEM®(間葉系幹細胞培養用AOF培地)
商品名:R:STEM Medium for hMSC High Growth

ロート製薬の再生医療等製品の開発の過程で得たノウハウを活用して作られた培地です。当社が治験で使用している培地と同等の原料グレード、製造環境そして品質管理下で製造しています。本培地は血清等の動物由来およびヒト由来原料が使用されていない AOF(Animal Origin Free)培地であり、化学的に定義された(Chemically defined)成分で構成されています。そのため、ばらつきが少なくロットチェックなどの手間を省略することができます。

StemNavi®(エクソソーム/細胞外小胞(EVs)産生用 AOF培地)
商品名:hMSC expansion AOF w/o Phenol Red

培地中のEVs量が検出限界以下であることを確認している、フェノールレッド不含の培地です。培地由来EVsによる細胞の性質変化のリスク低減が期待できます。

用語集

アニマルオリジンフリー/AOF (Animal Origin Free)

動物・ヒト由来の成分を含まないこと。一般的には哺乳類由来成分の不使用を指すこともある。


培地/Culture Medium

細胞や微生物を培養するための栄養分を含んだ液体や固形の材料。再生医療においては、細胞の増殖や分化に直接影響を与えるため、安全性と品質の均一性が極めて重要となる。


FIRMマーク/FIRM Mark

一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)が認証するマーク。4種類の認証スキームから構成されています。


ISO 20399

バイオテクノロジー-細胞治療製品及び遺伝子治療製品の製造時に使用する補助材料に関する、一般的な要求事項を定めた国際規格。細胞そのものではなく、培地や試薬などの品質確保を目的とする。


CPC/Cell Processing Center

細胞加工施設。再生医療等製品や特定細胞加工物を製造するために、無菌操作が行えるよう厳格に管理された専用の施設(クリーンルーム)。


トランスレーション/Translation (Translational Research)

基礎研究の成果を、実際の医療現場(臨床)で使える新しい医療技術や医薬品として実用化するための橋渡し的な研究・プロセスのこと。


CDMO/Contract Development and Manufacturing Organization

医薬品開発製造受託機関。医薬品や再生医療等製品の製造だけでなく、製法開発や治験薬や治験製品の製造などの開発段階から受託する企業やサービスのこと。


特定細胞加工物/Specified Cell Product

再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)に基づき、医療機関等でヒトに投与するために加工・製造された細胞加工物のこと。


エクソソーム/Exosome

細胞から分泌される直径50〜150nm程度の顆粒状の物質(細胞外小胞)。細胞間の情報伝達を担っており、近年では再生医療や診断、DDS(ドラッグデリバリーシステム)への応用研究が活発化している。


可溶化技術/Solubilization Technology

水に溶けにくい成分を、界面活性剤や特殊な製剤技術を用いて均一に溶解させる技術。点眼薬開発で培われたロート製薬のコア技術の一つ。


Nakanoshima Qross

大阪・中之島に位置する「未来医療国際拠点」。再生医療を中心とした先端医療の産業化を推進するため、医療機関、企業、スタートアップなどが集積するオープンイノベーション拠点。


OTC医薬品

薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せん無しに購入できる医薬品

まとめ

今回の取材のきっかけは、ある展示会のブースで「R:STEM」という培地に出会ったことでした 。日頃から愛用している商品があるロート製薬様が、これほどまでに本格的に再生医療分野へ進出されていることに驚き、手にした会社案内に記された127年の歩みに、私は思わず釘付けになりました 。
ロート製薬様はいつの時代も、その時々の社会課題に対して「初めて」の解決策を提示し、今の私たちにとっての「当たり前」を作ってこられた企業です。実際に「Nakanoshima Qross」を訪問して感じたのは、その精神が今も脈々と息づいていることでした 。スローガンとしてではなく、社員の方々や外部のパートナーが自然と交流し、高め合えるよう設計された空間。そこには、技術以上に「人」を大切にする、温かな体温がありました。

今回ご紹介した「R:STEM」は、次世代の医療を根底から支え、未来の「当たり前」を作るための大切な礎です。自社で製品を届けるだけでなく、CDMO(開発製造受託)事業などを通じて、業界全体の発展を間接的に支える姿勢に 、私は深い感銘を受けました。
まもなく創業50周年を迎える私たちにとっても、ロート製薬様が歩んでこられた道は、大きな勇気と希望を与えてくれるものです。
目に見える製品のその先にある、情熱と優しさ。 この記事を通じて、再生医療の未来に「本気」で挑むロート製薬様のスピリットが 、一人でも多くの読者の皆さんに伝わり、共に歩むエールとなれば幸いです。(インタビュー担当:松山(理科研・戦略推進本部))

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