2025年ノーベル化学賞特集

【祝・2025年ノーベル賞】
エネルギー・環境問題に貢献、
ノーベル化学賞受賞研究
「配位空間の化学」を解説!
【ストックホルム発】2025年10月8日、スウェーデン王立科学アカデミーは、同年のノーベル化学賞を京都大学の北川進特別教授に授与すると発表しました。
受賞理由は、新しい多孔性材料である「多孔性配位高分子(PCP/MOF)」の開発と、それによる「配位空間の化学」という新たな学術分野の創成です。
改めて、この度の受賞、誠におめでとうございます。
研究者向け専門サイト「サイサチ」では、今回のノーベル賞受賞研究の基盤技術が、今やライフサイエンス分野にも欠かせない「ドラッグデリバリーシステム」のような未来の医療を切り拓くことにも繋がるとして、関連する最新の製品や研究ソリューションを特集しています。
目次
1. 多孔性材料とは?
多孔性材料とは、目に見えないほど微小な穴(孔)をスポンジのように無数に持つ材料のことです。
その穴に特定の分子だけを取り込んだり、化学反応を効率的に進める「ふるい」のような役割を果たします。この性質を利用して、ガスの貯蔵や有害物質の除去、医薬品の開発など幅広い分野で応用されています。
2. 受賞理由
受賞理由は、新しい多孔性材料である「多孔性配位高分子(PCP/MOF)」の開発と、それによる「配位空間の化学」という新たな学術分野の創成です。
- 画期的な材料開発: 北川特別教授は、金属イオンと有機化合物を組み合わせ、ナノレベルの無数の孔(あな)を持つ多孔性材料を開発しました。
- 世界初の発見: 1997年、この材料が大量の気体を内部に取り込めることを世界で初めて実証し、水素や天然ガスなどの貯蔵技術研究を世界的に活性化させました。
- 新分野の開拓: さらに「ソフト多孔性結晶」という新しい材料を発見・発展させ、従来の多孔性材料(ゼオライトや活性炭など)の性能を大きく超える機能を開拓しました。
この功績は、クリーンな気体を安全かつ大量に貯蔵する技術を可能にし、次世代エネルギーとして期待される水素社会の実現を近づけます。二酸化炭素を選択的に分離・回収することで、地球温暖化といった環境問題の解決に大きく貢献します。
化学工業における省エネ化や有害物質の除去も可能にし、持続可能な社会の基盤技術を支えています。
3. 多孔性材料が使用されている代表的なもの

多孔性材料は、目に見えない微細な穴の特性を活かして、私たちの身の回りから先端技術まで幅広く使われています。代表的なものは以下の通りです。
- 活性炭: 冷蔵庫の脱臭剤や浄水器のフィルターが代表例です。無数の穴が臭いや不純物の分子を吸着して取り除きます。
- シリカゲル: お菓子の袋などに入っている乾燥剤です。湿気を穴に取り込み、食品が湿るのを防ぎます。
- 珪藻土(けいそうど): バスマットやコースターに使われています。優れた吸水性と速乾性は、珪藻土が持つ多数の穴によるものです。
- セラミックス: 食器やレンガだけでなく、水道の蛇口内部のフィルターなどにも使われます。穴の大きさや量を調整することで、特定の物質を通したり止めたりできます。
4. 産業・先端技術での応用例
- ガス貯蔵・分離: 水素自動車の燃料タンクや、工場から出る排気ガスから二酸化炭素(CO₂)だけを分離・回収する技術に応用されています。多孔性配位高分子(PCP/MOF)のような先端材料が活躍します。
- 触媒(しょくばい): 石油化学コンビナートなどで、化学反応を効率的に進めるために使われます。ゼオライトなどが代表的で、特定の分子だけを穴に入れて反応させることで、エネルギー消費を抑えられます。
- 医療・創薬: 薬の成分を穴に入れて、体内の狙った場所で少しずつ放出させる「ドラッグデリバリーシステム」への応用が研究されています。
5. ドラッグデリバリーシステムへの応用

今回の受賞は今やライフサイエンス分野にも欠かせない「ドラッグデリバリーシステム」のような未来の医療を切り拓くことにも繋がります。ドラッグデリバリーシステムとは何か、以下で解説します
仕組みのポイント
この技術の鍵は、薬を「いつ、どこで、どれだけ」放出させるかを精密にコントロールすることにあります。
- 薬をナノカプセルに入れる
多孔性材料で作られた、目に見えないほど小さなカプセル(運び屋)を用意します。その内部の無数の穴に、抗がん剤などの薬の成分を詰め込みます。 - 患部まで安全に運ぶ
薬を詰めたカプセルを注射などで体内に入れると、血流に乗って全身を巡ります。カプセルが薬を守っているため、途中で分解されたり、健康な細胞に影響を与えたりすることなく、目的の場所まで届けることができます。 - 患部だけで薬を放出する
ここが最も重要なポイントです。カプセルの表面には、がん細胞などが持つ特殊な「目印」にだけ反応する仕掛けがしてあります。
3-1 鍵と鍵穴の仕組み: カプセルががん細胞を見つけると、鍵と鍵穴が合うようにピタッと結合します。
3-2 環境の変化を利用: がん組織の周りは健康な組織より少し酸性であるなど、特有の環境になっています。カプセルはその環境の変化を感知すると、フタが開くように構造が変化し、内部の薬をその場で一気に放出します。
この技術のメリット
- 副作用の激減: 抗がん剤が健康な細胞(髪の毛や粘膜など)を攻撃しないため、脱毛や吐き気といったつらい副作用を大幅に減らせる可能性があります。
- 治療効果の向上: 薬を患部に集中させられるため、少ない薬の量で高い治療効果が期待できます。
- 難病への応用: これまで薬を届けることが難しかった脳の中など、特定の部位を狙った治療への応用も研究されています。
このように、多孔性材料を使ったDDSは、薬物治療をより安全で効果的なものに変える可能性を秘めた、まさに研究の最前線にある技術です。
6.サイサチ厳選!機器・製品
PickUP 多孔性材料、ナノ技術応用機器!
今回、サイサチでは多孔性材料、ナノ技術応用関連研究に有用な製品やサービスを特集いたします。ナノ技術応用関連研究は、「ナノ粒子解析」「タンパク質構成」「標的遺伝子の予測」「ナノポアシーケンス」など、多岐にわたります。必要な機器やサービス、物質についてもお気軽にお問い合わせください。
Listillカタログ【多孔性試薬・消耗品】関連試薬
Listillカタログでは多孔性試薬・消耗品各種を取り揃えております
多孔性材料を使用した代表的な理化学機器
研究に欠かせない、超純水製造装置/純水製造装置をご紹介します
ナノ技術応用機器
ナノ粒子解析から膜タンパク質構成、
ナノポアシーケンスまで
多岐にわたる機器が選択可能です。